No.12|残業するなと指導しても聞かない社員にどう対応する?労働時間管理の実務
残業を禁止しているのに勝手に働く社員への対応
「残業は事前申請制にしているのに、勝手に残って仕事をする社員がいる」
「残業するなと言っているのに、朝早く来たり休日に出てきたりする」
こうした悩みを抱えている経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
会社としては残業代の負担も気になりますし、何より長時間労働による健康問題も心配です。ただ、この問題は「本人が勝手にやっていること」で済ませられるものではなく、労働時間管理の責任が会社側にあるという点がポイントです。
労働時間の把握義務は会社にある
まず押さえておきたいのは、労働時間を適正に把握する義務は使用者(会社)にあるという点です。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも、使用者は労働時間を客観的な方法で把握しなければならないとされています。
つまり、「本人が勝手にやった」「指示していない」という主張だけでは、会社の管理責任を免れることは難しいということになります。
実際に働いた時間があれば、それが指示に基づくものでなくても、労働時間として扱わなければならない場合があります。特に、その作業が業務に関連するものであり、会社がそれを知りながら黙認していたと判断されれば、労働時間に該当する可能性が高まります。
「黙示の指示」と判断されるリスク
明確に残業を禁止していても、次のような状況があると「実質的には残業を認めていた」と評価されるリスクがあります。
終業時刻までに終わらない量の仕事を与えている
残業している事実を知りながら、特に注意や制止をしていない
残業して仕上げた成果物を受け取り、評価している
他の社員は残業しているのに、特定の社員にだけ「するな」と言っている
こうした状況は「黙示の指示」があったと判断される材料になります。口では「残業禁止」と言いながら、実際の業務運営では残業を前提とした指示を出していたと見なされることがあるのです。
対応の手順を整理する
では、実際にどのように対応すればよいのでしょうか。いくつかの段階に分けて整理してみます。
1. 労働時間管理の仕組みを明確にする
まず、残業の事前申請制を就業規則に明記し、その運用ルールを全社員に周知します。「残業が必要な場合は、事前に上司の許可を得ること」「許可なく勤務時間外に業務を行ってはならない」といった内容です。
そのうえで、タイムカードやICカード、パソコンのログなど、客観的な記録で労働時間を把握する体制を整えます。
2. 業務量の見直しを行う
次に重要なのは、その社員に割り当てている業務量が適正かどうかの確認です。定時内で終わらない仕事を与えておきながら「残業するな」というのは、現実的ではありません。
本人が非効率な働き方をしているのか、それとも業務量そのものが多すぎるのか、冷静に見極める必要があります。業務の優先順位づけや、他の社員への振り分けなども検討してみてください。
3. 本人と面談し、理由を聞く
なぜ指示に反して残業するのか、本人の考えを聞くことも大切です。
仕事が終わらないから仕方なくやっている
完璧に仕上げたいという責任感から
残業代を稼ぎたい
他にやることがなく、なんとなく会社にいる
こうした理由によって、対応の仕方も変わってきます。業務の進め方に問題があるなら指導やサポートが必要ですし、金銭目的であれば明確な禁止と懲戒の可能性を伝える必要があります。
4. 書面での指導と記録
口頭での注意だけでなく、書面で「無許可の時間外労働は認めない」「発見した場合は懲戒処分の対象となる(※ただし重すぎる懲戒は無効になり得る)」ことを明確に伝え、本人にサインをもらっておくことも検討してください。
同時に、いつ・どのように指導したのかを記録に残しておくことが重要です。後々トラブルになったときに、会社として適切な管理をしていたことを示す証拠になります。
5. 物理的に働けない環境をつくる
それでも改善されない場合は、物理的に残業できない仕組みを作ることも一つの方法です。
退勤時刻にパソコンを強制シャットダウンする
建物の入退館を時刻で制限する
上司が最後に退社し、消灯・施錠を確認する
ただし、持ち帰り残業や隠れた労働時間が発生しないよう、そちらにも注意が必要です。
労働時間と認められた場合の対応
もし無許可の残業が実際の労働時間と認定された場合、割増賃金の支払い義務が生じます。「指示していないから払わない」という対応は、法律上認められません。
一方で、会社として適切な管理・指導を行っていたにもかかわらず、本人が故意に指示に違反して働いた場合には、懲戒処分の対象とすることも可能です。ただし、その場合も賃金の支払い義務は残るという整理になります。
まとめ:管理責任と指導の両立を
残業を禁止しているのに聞かない社員への対応は、「放置すれば会社の管理責任が問われる」「一方で本人の規律違反も看過できない」という、両面からの対処が必要になります。
まずは業務量の見直しと、労働時間管理のルールの明確化から始めてみてください。そのうえで、本人への指導を丁寧に記録し、物理的な環境整備も含めて段階的に対応していくことが大切です。
すでに何度も注意しているのに改善されないという場合は、専門家に相談しながら、適切な労務管理と懲戒処分の可能性を整理しておくと安心かもしれません。
参考情報
労働基準法(労働時間、割増賃金)
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」



