No.13|残業申請制なのに勝手に残業する社員、残業代は払わなくていい?労働時間の考え方を整理する
「残業を申請していないから払わない」は通用しない
「うちは残業申請制なのに、勝手に残って仕事をしている社員がいる。申請していない以上、残業代は払わなくていいですよね?」
残業するなら、事前に申請するルールを導入したが、申請無く残業をしたからと言われても納得がいかないのではないでしょうか。
ただ、労働基準法の考え方は少し違います。残業代が発生するかどうかは「申請の有無」ではなく、実際に働いたかどうかで大きく判断されるという整理になっています。
労働時間は「使用者の指揮命令下にあった時間」
そもそも労働基準法では、賃金を支払うべき労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と考えます。
つまり、会社が明示的に「残業しろ」と命じていなくても、実際に業務をしていて、会社がそれを知りながら黙認していた場合は、労働時間としてカウントされる可能性が高いということです。
申請制を設けていること自体は悪くありません。むしろ労働時間の管理という意味では望ましい仕組みです。ただ、「申請がないから労働時間ではない」という理屈だけでは、裁判では通りにくいと考えておいたほうが安全です。
「黙示の指示」という考え方
明確な残業命令がなくても、業務量から見て残業せざるを得ない状況であり、会社がそれを把握していたなら、「黙示の指示」があったと判断される可能性があるという整理です。
つまり、申請制というルールがあっても、実態として残業が必要で、会社もそれを分かっていたなら、労働時間となります。
「勝手に残業」でも残業代が発生するケース
具体的にどんな場合に残業代が必要になるのか、整理してみます。
業務量が明らかに多い場合
終業時刻までに終わらない仕事量を与えておきながら、「残業申請がないから払わない」というのは難しい状況です。残業しないと終わらない業務を指示していること自体が、暗黙の残業指示と受け取られる可能性があります。使用者がすべき「適切な労務管理」としては不適切な状況です。
上司が残業を見ていて何も言わない場合
社員が残って仕事をしているのを上司が知っていて、注意も制止もしていない場合は、会社が黙認していたと判断されやすくなります。「知らなかった」という主張も、管理者として適切な労働時間管理をしていなかったという別の問題になります。
成果物の提出があった場合
申請外の時間に作成した資料や成果物を会社が受け取って業務に使っていれば、その作業時間を労働時間と認めていたことになります。
では、どう対応すればいいのか
残業申請制を意味あるものにするには、次のような対応が考えられます。
申請なしの残業は明確に禁止し、その場で注意する
申請せずに残業している社員を見つけたら、その場で声をかけて帰らせることが大切です。黙認している時間が長いほど、後で「会社が認めていた」と判断されるリスクが高まります。
業務量と終業時刻が合っているか定期的に確認する
残業申請がないのに頻繁に遅くまで残っている社員がいるなら、そもそも業務量が適切か見直す必要があるかもしれません。申請しにくい雰囲気がある、業務が終わらない、といった背景がないか確認しておくと安心です。
未申請の残業が続く場合は、注意指導を記録に残す
繰り返し無断残業をする社員には、口頭だけでなく書面での注意も検討したほうがよい場合があります。ただしその際も、実際に働いた時間分の賃金は支払ったうえで、ルール違反を注意するという順序になります。
まとめ:申請制は管理の手段、賃金は労働の対価
残業申請制は労働時間を適正に管理するための仕組みとして有効です。ただ、「申請がないから払わない」という理屈だけでは、労働基準法上の支払義務を免れることは難しいという整理になります。
大事なのは、実際に働いた時間があるかどうかです。未申請の残業があったなら、まずは賃金を支払う。そのうえで、ルールを守らなかったことについては別途注意指導をする、という順序で考えておくと安全だと思います。
申請制を形だけのものにしないためには、日頃から労働時間をしっかり把握して、申請なしの残業を見つけたらその場で対応する、という地道な管理が必要になってきます。手間はかかりますが、後で大きなトラブルになるよりは、日々の積み重ねで防いでいくほうが結果的には楽だと考えています。
参考情報
労働基準法、厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」



